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「第一生命営業職員不祥事」ーせめてこれぐらいの対応はすべきー



第一生命保険営業員の不祥事、呆れ果ててしまいました。
こんな古典的な手口がいまだに通用するのですね。
いくつか気が付いた点をコメントします。
あとで触れますが、同社のニュースリリースで示されている対策等はお粗末なものです。



1.「成績優秀者こそ不正を疑え」は金融検査の常識



「成績優秀者を見れば不正を疑え」は金融検査の常識です。
金融商品というのはそれほど突飛なものではありません。
しかも、商品は厳格に構築されており、様々なチェックシステムも働いています。
「成績優秀者」が他の営業担当者よりもはるかに抜きん出た成績を上げるなどというのは、実際には殆んどありえないのです。
飛び抜けた成績優秀者が仮にいたとすれば、何らかの不正の手口を用いていたのではないか、と疑うべきなのです。
通常の検査のほかに、成績優秀者については、特別な検査調査をするべきなのです。
しかも、本件の「特別調査役」については、幾度も社内外から不審な行動への問い合わせ等もあったのに、同社では、事態を把握できなかったのです。



2.不正発見の簡単な方法
不正を発見するためにはいくつか簡単な方法があります。
二つ三つ挙げておきます。


①成績優秀者に特別休暇を命じ、顧客との接触を一切禁止。本部担当者が顧客と接触する。
成績優秀者にある日突然特別休暇を命ずるのです。抜き打ちにアトランダムに休暇を命じます。本人に疑いがあるとかないとか、そんなこととは無関係に、不正防止・不正発見の手順としてルール化してしまうのです。成績優秀者こそ厳しくチェックする、という姿勢を全社に示すのです。
そして、特別休暇中には顧客との接触を一切禁止し、その間に、本部の担当者などが、顧客に挨拶回りをするのです。
「本人が急な用事で休みを取っております。
お客様にはいつもお世話になっていますので本部からご挨拶に参りました。」
といった口上で接触し、よもやまばなしをしながら、本人と顧客とのやりとりを聞き出すのです。
「そういえば特別枠ということでお金を預けたのに、なかなか返してもらえない。」といった話が出てくるかもしれません。


そんな話が無かっとしても、次のようなことははっきり伝えます。
「なおご存知かもしれませんが、特別のお客様だけの特別サービスといったものは、当社では一切扱っておりません。一部の営業職員で、そのような話をしているものがおりましたが、お恥ずかしいことですが、不正の手口であったと判明しております。
もしお心当たりがあれば教えてください。あるいは、後でご連絡いただいても結構です。」


②全役職員に対しての告知「自白を促す。タレコミを奨励する。」
全役職員に対して、次のように告知します。
「今回これこれの不正が判明した。
同様のことで、もしご自身で気がかりな点などがあれば連絡していただきたい。
自ら不適切な取り扱い等に気が付き申し出てきた場合には、罪は一切問わない。
但し、隠し通していて、後日、問題が発覚した場合には厳しい処分を行う。


また、ご自身でなく、周囲の人の行動などで気が付いたことがあれば、なんでも連絡してきて欲しい。単なる噂ばなしでも構わない。
当社は、勇気ある通報してきた人を必ず守ります。」


これも、勇気ある自白や告発を待つだけでなく、全役職員向けのアンケート調査をすればよいのです。みんなが答えなければいけないアンケート調査ですから、見過ごすことはできないでしょう。


今回の不正の対策というだけでなく、毎年の恒常的な対策として考えておくべきです。
私は前職の三井住友信託銀行で、全役職員向けのコンプライアンス研修を担当していました。
毎年の研修アンケートで「研修内容は理解できましたが」等の一般的な質問の後に「その他コンプライアンスでお気づきの点、疑問の点があれば自由にお書きください。」という記入欄を設けておきました。思いがけない情報も入手できました。全社員向け必須研修で、アンケートもその一環として回答を求められるので、心理的抵抗なく気軽に記入できたのでしょう。


③お客様向けの注意喚起
お客様向けには、取引成立時のお礼状とか定例的な挨拶状とかを出されているでしょう。
その中で次のような文言も必ず入れておくのです。
「なお当社では、特定のお客様だけの特別の商品といったものは一切取り扱っておりません。仮に営業担当者がそのような話をしていた場合にはぜひご一報ください。
大変お恥ずかしいことですが、どのような優秀な社員でも不幸にして魔が差すこともあります。
お客様からのご不審の点についてのご教示が、お客様を守り、また、営業職員を不正から救うことにもなります。
ぜひお力添えのほどをお願い申し上げます。」


3.第一生命の注意喚起のお粗末さ。
同社では、11月9日付で次のような注意喚起を出状しています。
「元社員による金銭の不正な取得」事案についての経過報告ならびにお客さまへの注意喚起


3.お客さまへの注意喚起
・ 本事案においては、金銭の不正授受に際して、行為者直筆(手書き)の「お預かり証」を手交していたことが確認されております。弊社では社員が私製領収書を用いて現金を取り扱うこと、弊社商品の取扱いにおいて、社員がお客さまから現金や小切手をお預かりすることはございません。
・ 万一、上記についてお心当たりがある方がいらっしゃいましたら、お問い合わせ窓口までご連絡くださいますようお願いいたします。」


およそピントが外れています。
「行為者直筆(手書き)の『お預かり証』を手交」は、不正行為の中の一つの手段に過ぎません。行為者がワープロでお預かり証を作っていれば信用してよいのか、会社の正規のお預かり証を使っていたら信用してよいのでしょうか。
むしろ問題なのは「特別なお客様向けの特別な商品」「成績優秀者だけに認められた特別枠」といった「特別なお取り扱い」という殺し文句だったでしょう。
お客様にお知らせすべきは、そんな特別な商品とか特別枠など、まともな保険会社なら(あるいは金融会社一般について)およそありえない、という1点だったはずです。


もう一つだけ言っておきます。
4.今後の弊社の対応・取組み
すべての営業員について例外なく、管理の責任所管を明確化・具体化すると共にコンプライ
アンス教育や不適行為の予兆把握体制の強化など、営業員の管理・教育体制およびコンプライアンス推進体制を強化いたします。
・ 支社監査・営業オフィス監査の強化ならびに「お客さまからの金銭受領」に関するコン
プライアンス研修、コンプライアンスチェックにかかる取組みの強化 等」


「すべての営業員について例外なく」というのはもちろん重要なことです。
しかし、もっと大切なのは、どこに重点を置いてチェックするかということです。
成績優秀者のチェックが甘かったのが問題なのです。
「とりわけ成績優秀者については、仮にも甘やかすことなく、厳格なチェックを行うことをお約束します。」
これぐらいのことがなぜ言えないのでしょうか。


4.第一生命の民事上の責任
少なくとも、民法715条(使用者責任)により、顧客には、損害全額を賠償する義務があるでしょう。
第一生命の職員として第一生命の名前でこのような不正取引を行っていたのです。事業の執行について第三者に加えた損害です。
しかも、同社は、選任や事業監督におよそ注意を払っていなかったのです。
顧客からの訴訟提起などを待たず、直ちに全額を賠償すべきです。
(その上で、同社から行為者に求償する、ということになるでしょう。もちろん、お金が返ってくるはずはありません。)


民法
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。


なおこの問題に関してダイヤモンドオンラインで次のような記事がありました。

次のような議論がされています。
「本来ならば顧客に告訴してもらい、会社側の雇用責任を問う形で損害賠償を求めて民事訴訟を起こしてもらうのが法的には分かりやすいが、第一生命としても株主へのポーズとしてすべて認諾というわけにいかず、応訴せざるを得ないだろう。そうすれば企業としてのイメージは悪くなる一方だ。
 顧客にとっても訴訟費用は安くないし、手間暇もかかるので負担は大きい。また、89歳の高齢女性に刑事罰を科すことはそれほどの意味を持たないし、望みは弁済してもらうことだけだろう。」


これはどういう意味なのでしょうか。私には全く理解できません。
第一生命としての使用者責任は明らかであり、顧客の訴訟提起を待つまでもなく損害全額を賠償すべきです。
なお、第一生命としては、株主代表訴訟などで取締役等の責任追及が行われることは覚悟せざるを得ないでしょう。
成績優秀者をちやほやして会社としてまともなチェックをしていなかったのですから、取締役が責任を問われるのは当たり前です。
不正・不祥事が起これば、取締役は自らの財産も失い路頭に迷うことを覚悟しなければなりません。
その覚悟があればこそ、取締役は、不正・不祥事防止に真剣に取り組むでしょう。
(下線部は17日20時半に追記)


私は三井住友信託銀行勤務時代に法務コンプライアンスを長く担当し、不正不祥事の対応については、退職後も研鑽を積んで参りました。
セミナーも実施し、オンライン教材も発行しています。
その目線で見て、今回の第一生命の対応のお粗末さに我慢がならなくなりました。


私の不正不祥事のブログは次のタグでまとめています。





銅鑼猫

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