激動する世界情勢とイノベーションの新潮流―東レ経営研究所特別講演会(その2:中国・深圳レポート)
Ⅱ.中国・深圳レポート―世界の工場からイノベーション都市への転換を目指す
永井知美氏(東レ経営研究所チーフアナリスト)
中国最初の経済特区の一つとして「世界の工場・中国」の象徴とされましたが、2000年代前半からの人件費不動産価格の上昇により、下請量産基地から脱却してきました。
いまや新サービス、新製品が溢れる「実装験都市」。「中国のシリコンバレー」です。
世界的企業も誕生しています。華為技術(ファーウェイ:スマホ)、大疆創業(DJI:ドローン)、テンセント(SNSウェブサイト)などです。
1.実装実験都市
「実装実験都市」として、スマホ決済、顔認証注文、無人コンビニ、それどころか、無人ロボットレストランまで登場しています。冷凍庫・ロボットアーム・電子レンジが装備され、テイクアウトもイートインも可能です。
驚くべきはイートイン。食事が終わると、テーブルの天板が奥に引っこみ、ゴミや食べ残しは、そのままテーブルの下に落とされます。
「すると自分はごみ箱の上で食事をしていたのか!」と唖然とするわけです。
アリババ系スーパーでは、ネット注文された商品をスタッフがピックアップ、天井のレールで外部配送スタッフへ。3キロ圏内なら30分以内に配達されます。
公道を自動運転バスが走ります。
まとめると次のようになります。
今あるものを組み合わせて新製品・新サービスを作る
完成度が6~7割でも市場に出し、不具合があれば修正すればよい、という発想。
失敗を恐れず、失敗しても立ち直る。走りながら考える。この中国流は、「スピード+交渉力+旺盛な起業家精神」といえましょう。ニューエコノミー分野にぴったりなのです。
2.「世界の工場」
かつては農村の出稼ぎ労働者(農民工)の集中する労働集約型産業が集積していました。
農民工不足から、賃上げ・労働環境改善運動が盛んになり、08年のリーマンショック後は外資系企業が撤退していきます。
政府主導でハイテク化が図られます。先端分野のスタートアップ企業を支援していきます。
3.深圳の強みと課題
①強み
2017年、深圳のGDPは遂に香港を越えました。
スマホを中心として様々な電子部品店舗が集結しており、短時間で量産に入れます。小ロット差えさも可能です。IoT,EV,ウェアラブル端末、ドローンなど先端分野に応用が可能です。アイデアを短時間で商品化できるのです。「深圳の1週間はシリコンバレーの1ヶ月」とまで言われます。
起業家精神旺盛な若者と投資家が集結し、行政、企業、大学などもこれを積極的に支援しています。
プライバシーの概念の薄さが、皮肉なことにAI開発の大きな強みにもなります。AI搭載の監視カメラでは、顔認証システムで個人情報から犯罪歴、通話・買い物履歴までひも付けしているのです。
②課題
中国の政治体制の下でどこまで「自由な深圳」が許されるのか。
米国との貿易戦争では、当地の企業が制裁対象になる可能性が強い。等
4.日本企業への示唆
競争力を左右するのはハードではなく、ソフトを利用した。サービス分野でのビジネスの構築力
IT技術者の重要性
大学研究機関の重視:政府のバックアップで人材に惜しみなく投資
起業家精神、スピード感、リスクを取る姿勢(ともかく市場に出してみる。不具合があれば修正していけばよい、という姿勢)
(その3に続く)
激動する世界情勢とイノベーションの新潮流―東レ経営研究所特別講演会(その3:日本産業界の立ち位置)
銅鑼猫