toranekodoranekoのブログ

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労働判例特別研究会(水町勇一郎先生の特別報告)の概要報告です。(4月14日開催)(4月29日追記:動画視聴のご案内)

4月29日追記
水町先生の特別報告について、ご希望の方に録画及び当日の資料をご提供いたします。
動画の視聴を希望される方は玉上宛にご連絡ください。
労働判例研究会事務局にお取り次ぎいたします。
参加費3千円(資料込)をご負担いただき、動画URL(YouTube)及び当日の資料をお送り申し上げます。



【連絡先】
労働判例研究会会員:玉上 信明(たまがみ のぶあき)
メール・アドレス:tnjmk0121@m3.gyao.ne.jp



労働判例研究会は、東京都社会保険労務士会の自主研究グループです。年に4回ほどの研究会を開催しています。
4月14日(木)の第130回研究会では、東京大学社会科学研究所教授水町勇一郎先生をお招きして四つの判例についての特別報告をしていただきました。
公開研究会として会員外の方へもご案内し、以下の通り全体で71名の出席をいただき、大変な盛況でした。
東京以外の方も何人か参加されました。リモート開催の強みが発揮されたと思います。
またこの機会に労働判例研究会への入会を希望される方も少なからずいらっしゃいました。この点も本当にありがたく感謝申し上げます。


1.日時4月14日(木)午後3時~5時
2.会場:リアルの会場とリモートのハイブリッド開催
  ①リアルの会場:ワイム貸会議室お茶の水RoomB
  ②リモート会場:ズーム


3.参加者総数:71名
 リアル :21名(労働判例研究会会員11名、非会員10名)
 リモート:50名(会員7名、非会員43名)


4.報告テーマ
以下、それぞれの判決につき水町先生の判例評釈に基づく解説と質疑応答
第一報告                                        
「業務委託契約による英会話講師の労働者性」(ジュリスト2022年2月号)
 NOVA事件(名古屋地裁令和元年9月24日:名古屋高裁令和2年10月23日判決)           
第二報告                                        
「地域手当の不支給とパート有期法8条の不合理性判断」(東京大学労働判例研究会報告)
  日本スポーツ振興センター事件(東京地裁令和3年1月21日判決)                                        
第三報告  
「私傷病休職からの復職のために求められる職務遂行能力」(ジュリスト2022年4月号)
 シャープNECディスプレイソリューションズ事件(横浜地裁判決令和3年12月23日)
第四報告                                 
「団交応諾命令と労働委員会の裁量」(原審仙台高裁令和3年3月23日判決についての評釈:ジュリスト2021年8月号)
山形大学事件不当労働行為救済命令取消請求事件(最高裁第2小法廷判決令和4年3月18日)



以下、受講者として、また当日のズーム運営者として若干の感想を申し上げます。
あくまで玉上個人の感想です。


【第一報告:NOVA事件】
裁判所が業務委託契約とされた原告英会話講師について労働者性を認めたものです。裁判所は旧労働省の労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」昭和 60 年 12 月 19 日の基準を丁寧に検討し、これに原告と同様の仕事をしている雇用契約の講師の実態も比較して原告の労働者性を認めたものです。


裁判所が随分丁寧な判断をされているので、質問の時間に質問してみました。
「労働事件の裁判で常にここまで丁寧に判断してもらえると期待できるのでしょうか。原告側によほど腕のいい弁護士がついて、しかも優秀な裁判官にあたったため、妥当な判決になった、とも思われます。」
先生のお答えは次の通りでした。
「労働者性の判断基準については、前述労働基準法研究会報告で明確になっており、裁判官は必ずそれをみて判断します。弁護士の主張が不十分だった場合には、裁判官が『求釈明』として補充質問したりして助け船を出してくれるでしょう。弁護士の腕はあまり関係ないと思います。
むしろこの事件では、比較の対象とした『雇用契約の講師』自体に本当に労働者性が認められるのか、という点をはっきり判断した上で、原告講師との比較をすべきだったのではないか。そのような理論的な疑問が残ります。」


当日のお話の中で私としては一番印象に残ったところでした。


【第二報告:日本スポーツ振興センター事件】
非正規社員の方が正社員との待遇格差を問題視して、弁護士をつけず本人訴訟で争った事件です。いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第 430 号)」に関する事案です。
地域手当や住宅手当についての東京地裁の判決は、ガイドラインの趣旨にはずれたところもあり、また原告の主張に対して、裁判所として十分検討して判断したか疑問な点があるように思われます。そのような点を解きほぐしてていねいに解説していただきました。


【第三報告:シャープNECディスプレイソリューションズ事件】
入社時から精神面に特性があった原告が入社後に適応障害を起こして休職し、その後、傷病が治癒したとして復職を求めたのに、会社が解雇した事案です。裁判所の判決は「復職の可否」と「退職の可否」の判断を峻別べきであり、会社が復職を認めず解雇したことを解雇権濫用と判断しました。
すなわち、「休職からの復職の可否」については、「休職理由の消滅」によって判断すべきであり、私傷病発症前の職務遂行レベルまで回復すれば復職させるべきものです。
本件では、会社がさらに踏み込んで、休職前よりもさらに高いレベルの職務遂行能力を要求し、「通常の従業員と同程度のレベルに至っていないとして退職させる」に等しい取り扱いをしている、これは、解雇権の濫用になる、というものです。
本人の特性や症状はかなり深刻なものです。経営者の目線で見れば、ここまで労働者に配慮しないといけないのか、といった疑問を感じました。
水町先生によれば、この判決の判旨は理論的に明確であり、「先例的な価値がある」と評価されるべきものとのことでした。
実務家としては、会社でこのような事案に接すれば、裁判の判決を待たずに何らかの形で和解で解決すべきではないのか、というのが率直な思いです。こんなことで会社の名前が有名になっても仕方がないと思います。


【第四報告:山形大学事件不当労働行為救済命令取消請求事件】
地裁・高裁で「大学の団交拒否から相当に日がたっている。これ以上団交を続けても合意は得られない。だから、県の労働委員会の『不誠実団交・救済命令』は裁量権の範囲を逸脱」としたものですが、最高裁が原審判決を破棄したものです。
私が思うに、地裁・高裁の判決は、常識的に的外れな判断でしょう。こんな考え方がまかり通るなら、使用者側としては団交拒否してひたすら時間稼ぎをしていれば、救われることになりかねないからです。
最高裁は極めて真っ当な判断をした、というのが水町先生の結論です。
以下の最高裁判決文は多くの方が是認されるところと思います。
「使用者が労働組合に対する誠実交渉義務を尽くしていないときは,その後誠実に団体交渉に応ずるに至れば,労働組合は当該団体交渉に関して使用者から 十分な説明や資料の提示を受けることができるようになるとともに,組合活動一般 についても労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから,誠実交渉命令を発することは,不当労働行為によって発生した侵害状態を除去,是正し,正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復,確保を図ることに資するものというべきである。」
将来に向かっての労使関係の適切なあり方を求めるのは、労働委員会の救済命令の本来的な目的です。
この点は水町先生の東京都社会保険労務士会「法学研修(専門編)」でも、つい先月にご説明を受けていたところで、素直に納得できました。
むしろ、前述のように地裁・高裁で的外れな判断が行われたのはなぜなのか、全国の裁判官のレベルに随分違いがあるのではないか、そのような疑問がわいてきました。



【ブログ事務局・連絡先】
労働判例研究会会員:玉上 信明(たまがみ のぶあき)
メール・アドレス:tnjmk0121@m3.gyao.ne.jp



銅鑼猫(玉上信明)

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