toranekodoranekoのブログ

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明るい高齢化社会、病から得た様々な宝、世の中の動きへの警鐘(銅鑼)を鳴らすこともあります。
ときどき大阪弁も出てくる聖書物語もお楽しみに。
主催者のほか様々な協力者も登場します。

江戸前のパリの街角小説版(その2)

(杉並区塚口公園)



今日はおばちゃんが退院する日、ママと一緒にお迎えに行きました。
病棟のいつもの廊下を歩いていたのに、あのおじさんの姿が見えません。
「ママ、あの『こんにちは』のおじさんがいないよ。」
「あらそうね。検査か何かじゃないかしら。」
そんなことを言いながら、おばあちゃんの病室に行きました。
とても元気そうでした。荷造りなんかもすっかり終わっていて、私たちを待っていてくれたようです。
「早く退院できてよかったですね。」
「本当ね。病院でとてもよくしてくれたから。ゆっくり骨休めができたみたい。」
そんな事を言いながら、あのおじさんの病室の前を通りました。
「おばあちゃん、あの『こんにちは』のおじさんは?」


おばあちゃんの顔が少しひきつったように見えました。
「退院されたのよ。」
「なんだ、そっか。よかった。」
私はいいました。


退院祝いに、ママはおばあちゃんの大好きなちらしずしを作ってくれました。
もちろん私も大好物です。
お腹いっぱい。
お風呂に入ってすぐに寝ました。


気が付くと、私は、またあの病院にいました。
あのおじさんがニコニコしながら私に手を振ってくれます。


「おじさん、退院したんじゃなかったの?」
「退院したんだよ。ちょっと忘れ物があって取りに来たんだよ。」
そう言いながら、私と一緒に歩いてくれます。


「さあ、皆さんに『こんにちは。』って挨拶してご覧。」
ちょっと恥ずかしかったけれど、おじさんも一緒にいてくれるのです。
思い切って、通りかかる患者さん、看護師さん、お医者さん、お見舞いの人たちに「こんにちは。」と挨拶しました。
みんな「こんにちは」と挨拶を返してくれます。


「よかったね。じゃあご褒美あげるよ。」
「え、なに?」
おじさんはそのまま歩いて行きます。
どういうわけか、いつの間にか病院の外です。


病院から10分ほど歩いたところが東京タワーです。
ところが、私たちは病院を出てすぐ、東京タワーの前にいました。
「さあ、目をつぶって、1、2、3、と数えてご覧。」
私は目をつぶって1、2、3と数えました。
「さあ、目を開けて」


目を開けてみると、目の前にはエッフェル塔がありました。
私は1人でした。
おじさんの姿が見えない。


でも、少し離れたところでおじさんはスケッチブックを抱えて私を手招きしています。
「さあ、そこに立って、素適な笑顔を見せてご覧。」


言われるままに私がにっこり笑顔で立っていると、おじさんはすごい勢いでスケッチブックにデッサンをしているようです。
周りには、沢山の絵描きさんがいました。イーゼルを立てて、思い思いに絵を描いています。
モンマルトルのひろばというところだったかしら。白いきれいなお寺も見えます。サクレクール寺院だったかな?
左のほうを見るとシャンゼリゼ大通り、そして凱旋門、その先にあるのはノートルダム寺院でしょうか。
ママに教えてもらったパリの様々な場所が、ここではひとところに集まっているようでした。
いつの間にか、私たちは、街角のカフェのテラス席に座っていました。
やがておじさんは手を止めて、目の前のコーヒーカップから美味しそうにコーヒーを飲んでいます。
私の前にもカフェオレの大きなカップがありました。
「疲れただろう。お飲みなさい。」
温かくて、ミルクとコーヒーの香りがいっぱい。飲み干すと口の周りにもカフェオレの泡がつきました。


「OK、あとはちゃんと仕上げて届けてあげるからね。
遅くなったらいけないから、今日はお帰り」


「おじさん、ありがとう。」
そういった途端に私は、布団の中で目が覚めました。


夢だったのかな、と思いました。
でも、口の周りにカフェオレの泡がついていました。


(続く:1月27日9時「その3」完結)


ニック&アーニャ



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