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改めてパワハラを考える:「パワハラ」の語感が誤解を生んでいる。



パワーハラスメントという言葉は、大きな誤解を生んでいるように思われます。

「パワーハラスメント」という言葉は、強圧的威迫的な言動がイメージされがちです。

厚生労働省指針の6つの類型は、むしろ、陰湿ないじめ嫌がらせこそが問題ということを、明確にしているのです。

1.パワハラの定義を再度確認する。
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。


2.パワハラの6つの類型を改めて確認する。


(出典)厚生労働省
職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!


6類型を検討するポイントについて筆者の考えも交えながら解説します。
特に「該当しないと考えられる例」については、疑問符がつくものもいくつかあり、もう少し慎重に考えた方が良いと思います。ぜひ皆さんで議論してみてください。


(1)身体的な攻撃
これは一番明確な問題と思います。
しかし、前項の表内にある該当しない例の「誤ってぶつかる」というのは非常に判断がしにくいものです。例えば、ちょっとしたわるふざけのつもりで幾度も「誤ってぶつかる」ことを繰り返されたら、相当の心理的ダメージになることもありうるでしょう。


(2)精神的な攻撃
遅刻や問題行動に対して注意をするのは職場秩序の維持のため、さらには危険回避のために必要なことでしょう。しかし、「一定程度強く注意する。」というだけでは人によっても状況によっても、とらえ方が様々でしょう。


危険行為ならばその場で厳しく叱責し、確実に止めないといけません。これは「精神的な攻撃によるパワハラ」に該当するはずがありません。「業務上必要かつ相当な範囲」といえるでしょう(パワハラの3要素の②参照)。


逆に、叱責という行動だけをとらえて、「該当する例」の「③大声での威圧的な叱責を繰り返す。」に当てはまると思い込み、危険行為への注意をためらうほうが問題です。それこそ労働災害を引き起こしかねません。


他方で、遅刻を繰り返す人について、その事情も確認せずに、ネチネチと長時間叱責するのはパワハラになりうるでしょう。本人の怠慢で遅刻しているとは限りません。ご家族の介護のために夜眠れず朝起きられない、そんな事情があるのかもしれません。


(3)人間関係からの切り離し
該当しない例の①は新入社員の研修ですが,、なぜこんなものを例示するのか、当たり前のことではないか、とも感じました。


問題は②懲戒処分を受けた労働者への「一時的に別室での研修」について、考えましょう。
その研修の内容が、例えば反省文を延々と書かせる、といったものであればパワハラに該当することがあるでしょう。JR西日本の「日勤教育」を思い出してください。
「通常の業務に復帰させるため」という目的に照らしてふさわしい研修かどうかを判断すべきでしょう。



(4)過大な要求、(5)過小な要求
ここでも該当しない例として「一定程度」という言葉が出てきます。
どのような内容ならば「一定程度」に該当するかを検討し、できれば具体的な基準にまで落とし込んでおくことが望まれます。


その場の管理者の思い込みや恣意的な裁量で決められたりしたら、労働者としてはたまったものではありません。労働者からの相談をちゃんと受けつけて個別に検討していくことが必要でしょう。


(6)個の侵害
これも個別の労働者の機微な情報に立入る問題です。現場の管理者等が勝手な思い込みで行動したら深刻な問題を生じかねません。


「本人のためを思って機微情報を第三者(例えば職場のメンバーたち)に漏らしてしまう」という例も見られるようです。「本人の意向をしっかり確認する」という当たり前の行動指針を社内で徹底すべきでしょう。


最近では、LGBTの本人の了解を得ずに、第三者に暴露する行為(「アウティング」)がしばしば問題になっています。大学院生がこのために自殺し、両親が大学に損害賠償の訴えを起こした例もあります。


アウティングは、暴露された当事者の命にも関わる深刻な行為であり、ハラスメントの典型例でしょう。


3.6つの類型を定めた本質的な意味


このような6類型を定めた本質的な意義は、パワハラという言葉の語感から来る誤解・思い違いを払拭する意味があるのではないかと思います。


すなわち「パワーハラスメント」という言葉では、強圧的威迫的な言動がイメージされがちですが、むしろ、陰湿ないじめ嫌がらせなども問題だということを、明確にしているのです。


6類型のうち、強圧的威迫的な言動は(1)と(2)(4)の一部にすぎません。
(2)(4)の残りや(3)(5)(6)に示されているのは、もっと陰湿な問題です
これら6類型は、現実に労働局等に相談があった事例などを分析して整理されたものであり、実際のパワハラの実態を浮かび上がらせたものといえましょう。


「パワーハラスメント」という言葉が本当に適切なのかどうかを検討し直すべきなのかもしれません。


銅鑼猫(社会保険労務士玉上信明)

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