toranekodoranekoのブログ

クリスチャンブロガーが綴るブログです。
明るい高齢化社会、病から得た様々な宝、世の中の動きへの警鐘(銅鑼)を鳴らすこともあります。
ときどき大阪弁も出てくる聖書物語もお楽しみに。
主催者のほか様々な協力者も登場します。

技師の遺言(原子力発電所の真実)

私が縁側で涼んでいると、裏の木戸を開けて引退した技師の中井さんがやってこられた。中井さんは私が幾度もお邪魔して現役時代のお話を伺った方だ。2年ほど前に亡くなっていたはずなのに?夢を見ているんだろうか。
でも、中井さんはいつものように、軽く手をあげておっしゃった。
「阿部さん。久しぶりだね。結婚が決まったそうじゃないか。おめでとう。」
「ありがとうございます。中井さんが遺されたノートを研究所の技師の方と一緒に解読しているうちに、その方と・・・。
さあ、これをどうぞ。フィアンセ(婚約者)のお母様が地元名産の『最中(もなか)』を送って下さったのです。ひとりでは食べきれないビッグサイズです。お好きなだけどうぞ。」
中井さんは縁側に腰掛け、冷茶を一口おいしそうに飲むと、『最中』の包みを開けて、4等分して一つを食べ始めた。そしてやおら語りだした。


「今日来たのは、やはりどうしてもあんたには話しかったからだ。原発のことだよ。」
やはりそうだったのか。あれから幾年たつのだろうか。収束のめども立たない。
むしろ隠れていた問題が次々明るみに出るような感じさえ受ける。


「まずは、なぜ私たちの国が原子力に傾注したのかだ。
原子力の圧倒的なエネルギーだよ。水力発電の『黒四ダム』は7年の難工事で171名もの殉職者を出した。得られたのは約34万キロワット(kW)にすぎない。
福島第1原発は1号機だけで46万kW、2号機から5号機はそれぞれ78万kW、6号機は110万kWだ。合計すれば468万kW。私たちはこの圧倒的なエネルギーに驚き衝撃を受け、国中に原発を造り続けたのだ。」


「そこでね、まず、電気を発生させる仕組みを確認しておこう。
・水力:ダムにためた水の位置エネルギーを運動エネルギーに変換してタービンを回す。仕組みは単純だが、大きなエネルギーを取り出すには、あんな巨大なダムが必要なのだ。環境の問題から、もはや我国では大規模水力発電の立地はないとされる。
・火力・原子力:単純に言えば、お湯を沸かしてタービンを回す仕組みだ。化石燃料を燃やすのか、ウランの核分裂反応を用いるかの違いに過ぎない。核分裂反応は、自然の中で物質として安定していた秩序を強引に解き放って、エネルギーを得る。リスクが大きいことは想像できるだろう。」


「原発の問題をいくつかにわけて説明しよう。
一つ目はコントロールの難しさだ。
水力は蛇口を締めればすぐ止まる。火力は火を消せば数十分程度で止まる。
原子力は違う。熱が一定の温度を超えると核分裂がおこり、その連鎖反応は止まらない。やかん(原子炉)に入れた燃料は、水を沸騰させるだけでなく、常時適切にコントロールしていないと、やかんを熱で破って外部に流出していく(メルトダウン)。
原子力はこの圧倒的エネルギーをどのようにコントロールするかの戦いなのだ。止めるには冷温停止しかない。
福島では、8つの冷温停止装置の内、7つが電力で動く装置だったため停電で稼働せず、残りひとつは職員が使用方法を知らなかったために結局使用できなかった。
メルトダウンは起こしたがとりあえず止まったのは、幸運な偶然に過ぎない。人間がコントロールした結果ではない。いまだに原子炉内の状態がどうなっているかさえ、わかっていないのだ。」


「二つ目の問題は、事故発生時の危険だ。
原発については、事故発生時のリスクがほかの発電方式と根本的に異なる。影響の範囲が急速にしかも制御できないほど広範にひろがる。
人々が着のみ着のまま避難を余儀なくされた。見当違いな方向へ避難しては別の場所へ動くことさえあった。動かすことのできない病人も無理に動かすしかなかった。避難先で、環境変化に耐えられず亡くなったり(原発関連死)、病が重くなる方も続出した。
 家畜などは打ち棄てるしかなく、現地で死に絶えて白骨化している。一時帰宅した人々が家畜たちの変わり果てた姿を見て、原発反対に動くのは当然のことだろう。
さらに将来にわたる環境への影響、例えば子どもたちなどへの影響はどのようになるのか。甲状腺がんなどの発生が懸念されている。」


「そして原発については大きな事実誤認が二つまかり通っている。
一つは『原発はCO2をださないから地球温暖化対策の切り札になる、地球環境に優しい-』というものだ。
原発は、膨大な核分裂エネルギーを用いてお湯を沸かすものだ。技術的な制約から熱効率が悪い。100万キロワット時の発電のさいには、その倍の200万キロワット時もの排熱を発生させ、これを海に流すなどで、地球を直接温暖化している。さらに高レベル放射性廃棄物という、危険な副産物が加わる。
これに対して火力は、技術進歩で熱効率がよくなっており、100万キロワット時の発電のさいの排熱は同量の100万キロワット時に留まっている。CO2排出量こそ毎時4000トン弱だが、全体を比較すれば、いずれが地球環境に優しいのだろうか。」


「原発についてはもう一つの大きな事実誤認は、原発がコスト安、というものだ。いま明らかになってきている様々な費用(たとえば除染費用、汚染水対策)などを精査していけば、現在のコスト見積の問題は明らかになっていくだろう。
逆に火力については、シェールガスなどの新しいエネルギー源をどう活用するか、などのコスト減の道が検討されているではないか。
なによりも原発事故発生時の危険は、人の生死にすら直接かかわる問題だ。たとえコストが安かったとしても、選択すべき道かどうか、慎重に考えないといけない。
もちろん、火力でも水力でも人命の危険はある。但し、火力・水力については人命の危険は設置工事や原料採掘・輸送や発電に携わるプロフェッショナルにほぼ限定され、制御は不可能とは言えない。
原発のように、予想もつかないときに広範な人々に緊急に危険が及ぶものではない。」


私はただ圧倒された。
中井さんはお茶を一口飲み、言葉を継いだ。
「技師にとって本当に大切なことが何かわかるかね。技師に限らずおよそプロと言われる人にとって本当に大切なことが何なのか?」
「・・?」
「それはね、自分が向き合う対象への畏れの気持ちだよ。そして感謝の気持ちだ。
技師なら自分の技術ですべてコントロールできるなどと考えてはいけない。科学者なら自然への畏れ、畏敬を忘れてはならない。
私たちが地球を作ったのではないし、私たちが地球を支配しているのもない。
私たちは、ひとときこの地球に住むことを許されている存在にすぎない。
住まわせていただいていることへの感謝があれば、畏れの気持ちがでてくるはずだ。
いま私たちがすべきは、この過酷事故の真実、その後の私たちの行動を隠すことなく世界に示すことだ。そこから得られる教訓を全世界に発信すべきだ。
そしてこの事故から勇気をもって立ちあがっていくこの国と国民の姿を世界に示すことだ。」
中井さんの話はようやく終わった。
私はやっと口を開くことができた。
「中井さん。また来てくださいますか。」
「何時でも呼んでおくれ。まだまだ落ち着いて眠ることは出来そうもないからね。」
そう言うと、中井さんの姿はふっと消えていた。


そしてお皿には、あのビッグ最中の包装紙だけが残っていた。
そうだ、中井さんは筋金入りの甘党だった。
「中井さん。また来てくださいね、おいしいお茶とお茶菓子を用意しておきますから。」
そう呼びかけてみた。裏の木戸がカタンとなったように思った。


阿部吉江


(注)このブログ「技師の遺言」は、東京カベナント教会ブログ「重荷をおろして」に2013年10月に投稿していたものですが、その後も原子力発電所の状況は一向に変わらないようです。中井さんが業を煮やして近々またいらっしゃるような気がしてなりません。
2013年に中井さんに教えていただいた文献は、いずれも大切なものだと思います。以下に紹介します。


【主な参考文献】
嶋田隆一監修・佐藤義久著 「電気のしくみ―発電・送電・電力システム
 (原発と地球環境の問題については、この本の159頁、166頁参照)

電気のしくみ 発電・送電・電力システム
電気のしくみ 発電・送電・電力システム
丸善出版



 (原発と地球環境の問題については、この本の159頁、166頁参照)


安富歩著 「原発危機と『東大話法』―傍観者の論理・欺瞞の言語―」

原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語―
原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語―
明石書店



広河 隆一 「福島 原発と人びと」

福島 原発と人びと (岩波新書)
福島 原発と人びと (岩波新書)
岩波書店


コリーヌ・ルパージュ著
「原発大国の真実: 福島・フランス・ヨーロッパ ポスト原発社会へ向けて

原発大国の真実―福島、フランス、ヨーロッパ、ポスト原発社会へ
原発大国の真実―福島、フランス、ヨーロッパ、ポスト原発社会へ
長崎出版




金子勝著「原発は火力より高い」

原発は火力より高い (岩波ブックレット)
原発は火力より高い (岩波ブックレット)
岩波書店