「あのイエス様のお話をして頂戴」(「ゴルゴタの丘」の退役兵士が孫娘に語るイエス様のお話)
(東京カベナント教会)
「おじいちゃん、ねえ、あのイエス様の十字架のお話、また聞かせて!」
おやおや……またその話かい?
もう何度も話したろう。けれど、お前がそう言うなら、おじいちゃんも話さずにはいられないよ。あの日のことは、まるで昨日のように、今でも心に残っているんだよ。
ずいぶん昔のことさ。
おじいちゃんは、若い頃、ローマ軍の兵士だったんだ。エルサレム軍団の第一百人隊――軍団の中でも選び抜かれた精鋭たちさ。おじいちゃんはその隊長殿の伝令係を務めていた。
その年の過越しの祭りの日――ユダヤでは一番大事なお祭りの日だった。
反乱や騒ぎが起こりやすいから、我々精鋭部隊が処刑場の警護に当たっていたんだ。
そのとき、十字架につけられることになったのが、ユダヤ人の男、イエス様だった。
他にも二人の盗賊がいたけれど、おじいちゃんの目はイエス様から離せなかった。十字架の下、隊長殿のすぐそばに立っていたから、イエス様の様子がよく見えたんだ。
手も足も釘で打たれ、いばらの冠をかぶせられた頭からは血が流れていた。
あんなに苦しいはずなのに、イエス様は誰の悪口も言わなかった。むしろ祈っていたんだよ。
「父よ、彼らをお許しください。彼らは、自分が何をしているのか、わからないのです。」
その言葉を聞いたとき、おじいちゃんは、足が地面に縫い付けられたように動けなくなったよ。
だって、あれほど痛めつけられ、罵られ、見捨てられたそのときに、敵をゆるし、祈るなんて――そんな人間、ほかには見たことがない。
人々は口々にイエス様をあざけった。
若い兵士たちは、イエス様の着物をくじ引きで奪い合っていた。
十字架の上の盗賊の一人まで、悪態をついていた。
けれど、もう一人の盗賊がこう言ったんだ。
「お前は神をも恐れないのか。俺たちは当然の罰を受けている。だが、この方は何も悪いことをしていない。」
そしてイエス様に向かってこう頼んだ。
「イエス様、あなたの御国にお着きになるときには、どうか私を思い出してください。」
そのときのイエス様の声は、静かで、でもはっきりと聞こえた。
「まことにあなたに告げます。あなたは今日、私とともにパラダイスにいます。」
――その言葉を聞いた瞬間、おじいちゃんの胸の奥に、あたたかい何かが灯った気がしたんだよ。
そのあと、急に空が暗くなった。昼間なのに、まるで夜のようだった。
あたりはざわめき、不安と恐れが広がっていった。兵士たちも、皆緊張していた。
そして、イエス様は、最後に大声でこう言った。
「父よ。わが霊を御手にゆだねます。」
そう言い終えると、首を垂れて、静かに息を引き取られた。
その瞬間、地面が大きく揺れた。雷鳴のような音も聞こえた。
誰かが叫んだ。
「神殿の幕が裂けたぞ!」
兵士たちも、人々も、恐怖に駆られて逃げ惑った。でも、隊長殿は、じっと十字架を仰いで立ち尽くしていた。
副官殿が駆け寄り、「隊長殿!」と声をかけたとき、隊長殿はようやく私たちを振り返り、こう言ったんだ。
「あの方は本当に正しい方だった。神の御子だった。」
おじいちゃんは、その言葉を一生忘れないよ。
あの時、私たちは、目の前のイエス様こそ、ただの罪人なんかじゃない。
神から遣わされた方なんだ、と心から思ったんだ。
だから、お前が「イエス様」と呼ぶのと同じように、おじいちゃんも「イエス様」と呼ぶんだよ。
……さて、お話はここまでだよ。
お前もいつか、自分の目で聖書を読み、このイエス様のお話を心に刻んでおくれ。
(あの「ゴルゴタの丘の兵士」を兵士が孫娘に語る形にしてみたものです。
感想をお寄せいただけると幸いです。)
(4月20日はイースターです。本当のイースターとは何か、ご一緒に考えてみませんか)
虎猫(東京カベナント教会会員玉上信明)