小田急電車延焼事故~失われた現場力
この事件は、あまりにも単純で馬鹿げた問題です。
火災現場近くに列車を止めてはならない。直ちに現場から離れた場所まで移動させて、乗客・乗員の安全を確保しなければならない。
なぜこの簡単な事ができなかったのでしょうか。
9月12日の日経新聞朝刊では、「安全対策が裏目に 小田急火災、現場に8分間停車」として、「運転士らの対応はマニュアル通りで、問題はなかったとみられる。」といったコメントが記載されています。心得違いも甚だしいと言わざるを得ません。
ルール・マニュアルを守るべきではなかったのです。現場で危険を察知したならば、運転手はそれに応じて行動しなければならない、という基本原則こそが大切です。
ルール・マニュアルというのは想定された事態に、間違いなく行動できるように予め対応の仕方を定めたものです。想定外の事態、緊急時には役に立たないことがありうるのです。「急いで運転台に戻ったが、発進には運行全体をつかさどる指令所の許可が必要だ。」というのは通常の場合のルール・マニュアルであり、切羽詰った段階では、こんなルールは守ってはならないのです。人間の体を考えればよくわかります。緊急時には大脳の指令をまたずに、脊髄反射で直ちに身を守ります。熱いやかんにに手が触れたら、アチチというやいなや、手を引っ込めるでしょう。大脳様の指令など待たないのです。緊急時には、遠く離れた指令所の指示を待ってはならないのです。
いま一つ疑問があるのは、警察や消防の行動です。緊急停止ボタンを押したのは警察官です。消防が「線路で消火活動する必要があるので列車を止めて欲しい。」と言われ、警察官がボタンを押したのです。よりにもよって火災現場で電車が止まってしまったら、消火活動そのものにも支障が生じます。警察官は、停止した電車に駆け寄って事態を説明し、直ちに電車を動かすよう依頼しなければならなかったはずです。
運転士が下車して踏切に問題がないかを確認したが、火災のことに気がつかなかった。これは運転手の責任ではありません。現場の警察・消防が運転士に直ちに伝えることを怠った、ということではないでしょうか。
緊急時に現場の判断で人命が救われた事件は、多々あります。小田急がルール・マニュアルを直すのであれば、「緊急時には現場の判断で乗客・乗員の安全確保を第一に考えること。指令所の指示を待ってはならない。」という大原則をまず掲げるべきです。
この事件については、なお、様々な調査コメントが寄せられるでしょう。改めて論じたいと思います。
銅鑼猫