toranekodoranekoのブログ

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会社は労働者の意に反してテレワークを命ずることはできない。



弁護士の先生方がテレワークに関してWEB セミナー等で様々な情報提供をされています。その中で「使用者・企業が労働者の同意がなくてもテレワークを命ずることができる」という見解をしばしば見かけます。


(例)
①「在宅勤務について:企業の職場変更権に基づいて在宅勤務を命ずることができる。」
②「問:テレワークを実施するのに労働者本人の同意は必要ですか?命令できますか?
回答:就業場所に関する指揮命令権の行使として、テレワークを命令することは当然可能です。就業規則等の特段の根拠は不要です。」



この考え方は、厚生労働省の次のガイドラインの記載と異なる見解です。


「個々の労働者がテレワークの対象となり得る場合であっても、実際にテレワークを行うか否かは本人の意思によることとすべきである。」と明記されています(ガイドライン本文3.(1))。


私は気が付く都度に、当該弁護士の先生にガイドラインを示してご見解を確認しています。複数の先生から不適切な内容であった旨のご回答いただいておりますが、なしのつぶてという事もあります。
テレワーク関係の公的団体などにも照会を差し上げ意見交換を進めております。
ご参考までに皆様にもお知らせします。また動きがあればご案内いたします。


【以下、テレワーク関係の規制の経緯・議論の考え方をまとめました。】
1.新型コロナウイルス対策としてテレワークが急進展しましたが、これは感染症防止対策として使用者の安全配慮義務の一環として、いわば緊急避難的に指示され、労働者も同意した、と構成できると思います。


2.しかし、使用者が労働契約に基づいて当然に労働者にテレワークを命ずることができると言うのは、明らかに不適切です。とりわけ在宅勤務は、プライベートな生活な場に仕事を持ち込むことですから、常識的にも使用者が労働者の意に反して命ずることはできないでしょう。


3.この点は働き方改革実行計画の中でも明確にされています。


働き方改革実行計画の中で「5.柔軟な働き方がしやすい環境整備(テレワーク、副業・兼業など)」として、検討が進められました。


②「柔軟な働き方に関する検討会」の中で、情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインが検討策定されています。
当該従業員の意思に反してテレワークを命ずることは相当に慎重であるべき、という点は、厚生労働省の一貫した方針であり、 「柔軟な働き方に関する検討会」でも当初から受け入れられ、 「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」にも取り入れられたものです。


【参考】議論の出発点となる厚生労働省の資料
柔軟な働き方に関する検討会議事録第1回資料を参照)
資料4 雇用型テレワークの現状と課題(PDF:2,600KB)
 8頁以下に当時のガイドラインが掲載されています。


4.法的には使用者の権利の濫用や配慮義務の問題としても整理できます。
使用者・会社が労働者に勤務場所を指定することができるというのは労働契約上の労務指揮権・指揮命令権という考え方の通説・判例によるのでしょう。
一方で、労働契約上で使用者の権利とされるものでも、権利の濫用とみられると無効になります。また、労働契約には、付随義務として労働者には誠実義務、使用者には配慮義務があります。
使用者が労働者の意に反してテレワークを命ずるのは、使用者の信義誠実上の配慮義務にふれるおそれがあると考えられます。厚労省は、法源(裁判規範)とはならない通達というガイドラインのなかで注意を促していると思われます。
ガイドラインにおいては、他の事項では「望しい」という記載が行われていますが、ここだけは「すべき」である、と明記されています。権利の濫用、配慮義務を考慮したものと思われます。
使用者において勤務場所の指定・異動を命ずる権利があるとしても、これまでは生活の場である自宅などは判例通説などでは十分に想定されていなかったと思われます。
このため厚生労働省はガイドラインという形で、「慎重に対処しないとやり方によっては権利の濫用なるし、場合により配慮義務の債務不履行になるおそれもある」と警鐘を鳴らしているのでしょう。


5.実務として使用者労働者とも十分な注意が必要です。
仮に労働者から「意に反するテレワークを強いられた」などとして、使用者との紛争になった場合には、例えば、労働者側弁護士がこのガイドラインを根拠にして、使用者の権利濫用や配慮義務違反を問うてくることが十分に想定されます。
裁判官ならば、このガイドラインの記述を十分に斟酌して、使用者に不利な判断をする可能性が高いと思われます。学説判例で明らかでない問題であるからこそ、行政官庁・監督当局の見解は、裁判などの紛争の場で重視される可能性が強いと思います。


6.専門士業者は紛争予防に万全の配慮が必要・情報収集と提供義務を忘れるな。
弁護士が会社など顧客に情報提供をするのなら、公的なガイドラインの存在は明示すべきです。その上で、法解釈上で、労働者の意に反してでもテレワークを命ずることができると主張されるなら、その根拠を明確に示すべきです。
私は複数の弁護士と意見交換をしている中で、このガイドラインの記述をご存知なかったと思われる事例すら見てきました。
クライアントがガイドラインの記述を知らずに紛争に巻き込まれた場合、どのように責任を取られるつもりでしょうか。
企業法務に携わる弁護士なり社会保険労務士なら、働き方改革実行計画以来のテレワークの議論の積み重ねを把握した上で議論をされるべきです。


【参考】玉上のテレワーク関係執筆記事(7月26日追記)
テレワークに関しては、6月に立て続けに記事執筆のご依頼をいただきました。
その前には新型コロナウイルス関連の記事執筆も進めて参りました。
その中で厚労省ガイドラインも含めて考え方を整理してきました。
上記の論考はこれをベースにしています。
69歳の年金生活者、形ばかり社会保険労務士を開業している人間が少し調べればわかる程度の問題だったのです。




銅鑼猫

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