toranekodoranekoのブログ

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クリスチャンブロガーが綴るブログです。
明るい高齢化社会、病から得た様々な宝、世の中の動きへの警鐘(銅鑼)を鳴らすこともあります。
ときどき大阪弁も出てくる聖書物語もお楽しみに。
主催者のほか様々な協力者も登場します。

シンバルよ、輝け!

 私は若い頃にアマチュアのオーケストラに参加していました。金管楽器のテューバ(大型のラッパ、最低音を担当)を吹いていました。この楽器はあまり出番がありません。時々打楽器も担当しました。私が一番好きなのはシンバルでした。幼稚園の学芸会で、叩きたかったが叩かせてもらえなかった、苦い思い出のせいかもしれません。


 台湾に演奏旅行に行ったことがあります。
シンバルは、台湾のオーケストラからお借りしました。年代物のとっても大きなシンバルです。練習の時に叩いてみると、その音の大きさ響きのよさに、オーケストラの団員たちがびっくりしていました。シンバル製作は職人の技であり、世界中でよいシンバルは中国とトルコでしかできない、と聞いていたことを思い出しました。
 そして、本場を迎えました。私が思いっきりシンボルを叩くと、客席にいた子供たちが大喜びで、立ち上がって一緒に手を叩くのです。
演奏会が終わってパーティーがありました。台湾の人たちが私を見て「あ、シンバルを叩いていた人ですね。」すぐにわかっていただき、大いに受けました。


 そして、もう一つ。
 これは日本での演奏会です。思い出深いのがサンサーンスのピアノ協奏曲第2番です。
 全部で三つの楽章からなる。20分ほどの曲です。
最後の第3楽章で3回だけシンバルが打ち鳴らされます。練習の時に何度やってもうまく叩くことができません。レコードを買ってきて、何回も聞きました。オーケストラのスコアも買いました。オーケストラの全部のパートが載っている楽譜です。フランスで出版され、解説もフランス語です。とても高かったのですが惜しいとは思いませんでした。
 わからないなりに楽譜をめくり、レコードを何度も何度も聴きました。その当時のレコードというのは「LPレコード」といって、レコードの針が直接に盤面に触れて音を出します。何度も聞いているうちにレコードがすり切れていってしまうものです。そのうちにだんだんシンバルの音が何を意味しているのかが、わかってきました。


 本番です。
 夢見るようなピアノのソロで曲は始まります。
 弦楽器が、あるときは囁(ささや)くように、そしてあるときは華やかに奏でられ、管楽器が色を添え、ティンパニーが力強く、時にはリズミカルに曲をリードします。
そして、第3楽章の最後近く、シンバルが打ちならされ、夢の終わりを告げるのです。


 本番は大成功でした。ソリストが花束を受け取り、涙をながします。聴衆が熱狂的な拍手を送ります。


 私はふとこんな事を考えました。
おめでとうございます。あなたの精進の賜物です。
でも、時には思い出してください。
全曲の中でシンバルをただ3回叩く。そのためだけにスコアもレコードも買い、幾度も幾度も練習して、そのときに心を込めて打ち鳴らした男がいたことを。


【注】2015年7月に東京カベナント教会ブログ「重荷をおろして」に掲載していたものです。年の初めにふさわしい輝くブログとして再掲しました。


虎猫

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