toranekodoranekoのブログ

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働き方改革法案成立を目指して(高度プロフェッショナル制度の取り扱い私案)

阿倍野美玖様


銅鑼猫です。
「働き方改革はなぜ必要なのか。」お手紙有難うございました。
先に申し上げた通り、この法案について私なりの意見を申し上げます。


  国会がますます紛糾しています。安倍首相は働き方改革法案について、どのような着地点を探っておられるのでしょうか。
働き方改革法案は、ぜひこの国会で成立させるべきものです。
一番のポイントは「高度プロフェッショナル制度」の取り扱いでしょう。
私の意見を申し上げます。
高度プロフェッショナル制度についての欧米での実際の扱いをもう一度確認した上で、次の2案を提案します。
第一案:高度プロフェッショナル制度を今回の法改正から外す。
第二案:同制度を導入する場合は導入要件を厳しくする。また制裁も厳しくする。


1.欧米の実態をよく知ることが議論の前提
  前提として高度プロフェッショナル制度(以下「同制度」)について欧米の実態を確認しておくことが必要です。専門的な研究が多々行われています。この制度について議論する方は、このような基本的な調査にちゃんと目を通しておられるのでしょうか。大変疑問です。
 簡単に言えば、同制度は欧米で一般的な制度とは言えない。米国では、違反の制裁措置が極めて厳しい。米国でのホワイトカラーの職務のあり方が我国と全く異なり、米国の制度をそのまま我国に適用できるかは疑問です。


①同制度は、欧米で一般的な制度とはいえない。
 諸外国の法制には様々相違があるが、概括的に言えば次の通り。
アメリカでは普及(全労働者の2割程度)、
ドイツ・フランスではごく少数(ドイツで全労働者の2%程度、フランスも幹部職員比率は2割程度だが、その中の最高水準の報酬の者に限定)
英国では、統計がないので判然としない。
労働政策研究・研修機構(JILPT)「労働政策研究報告書」No36(2005年)
諸外国のホワイトカラー労働者に係る 労働時間法制に関する調査研究20頁等


②米国では、同制度の適用に当たって不適切な扱いをした場合の制裁が極めて厳しい。
 適用除外に該当しないのに該当すると扱った場合:未払分割増賃金(日本と異なり5割)、倍額賠償金さらに弁護士費用の支払い。集団訴訟により同様の立場の労働者のための訴訟が可能。不適切な賃金減額を行った場合、減額相手の被用者のみならず当該管理者の下で同一職務に従事していた被用者全員につき適用除外が受けられなくなる。
上記報告書77頁)


③米国で普及していても我国と前提の条件が異なる。我国への導入は慎重でなければならない。
 米国では、職務内容は職務記述書で明確化されている。ホワイトカラー・エグゼンプションの利点たる「自由度の高い働き方」の前提条件である担当業務の明確さが実現している。担当業務の決定権は各ホワイトカラーが保有している、転職も容易、等である。
笹島 芳雄(明治学院大学名誉教授)
労働政策の展望 ホワイトカラー・エグゼンプションの日本企業への適合可能性
(JILPT日本労働研究雑誌2016年5月号)


2.解決策の提案
以上をもとに解決策について提案します。


第一案:高度プロフェッショナル制度を今回の法改正から外す。
 裁量労働制の拡大を外したのと同じです。これが一番すっきりします。安倍首相が決断さえすればいいのです。はっきり言えば、我国の現在の労働慣行の下では、同制度は過労死・過労自殺の温床になりかねません。働き方改革の本旨から外れたものです。


第二案:同制度を導入する場合は導入要件を厳しくする。また制裁も厳しくする。
①過労死・過労自殺の前科のある企業には、導入を認めない。
導入した後で過労死・過労自殺が起こった場合には過去に遡って対象者全員について適用を取り消し、割増賃金+同一額の付加金(労働基準法114条)を支払う。
②同制度の適用対象でない人を適用対象とした場合にも、過去に遡って適用を取り消し、割増賃金+同一額の付加金(労働基準法114条)を支払う。また、他の適用対象者についても再度、厳格な調べ直しを命じ明確に適用対象と立証できない限り、過去に遡って適用を取り消し、割増賃金+同一額の付加金(労働基準法114条)を支払う。
③裁量労働制に関しても、同様の取り扱いを定める。


我国で労働法制がないがしろにされるのは、制裁が甘すぎるからです。制裁については、米国をもっと見習うべきです。


 そしてまた、基本的な調査報告にはしっかり目を通して議論すべきです。
前述の笹島 芳雄先生の論文で、以下の記述があります。よく心すべきです。
「わが国の制度創設決定に至る過程で、産業競争力会議雇用・人材分科会の主査としてホワイトカラー・エグゼンプション制度の試案を公表するなど重要な役割を演じた長谷川閑史氏(前経済同友会代表幹事、武田薬品工業(株)会長)は、朝日新聞のインタビューにおいて、『米国で当たり前のことがどうしてできないのか。日本の経営者は(悪用が懸念されるほど)モラルが低いのか』と述べている(2014年5月22日朝刊)。
 現実には、わが国とアメリカとの間には労働市場の違い、企業の人事管理の違いなど様々な相違があることから、アメリカ企業には適切であり、効果的に機能している制度であっても、わが国企業にとって適切で効果的に機能する制度であるとは限らない。」


銅鑼猫

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