toranekodoranekoのブログ

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働き方改革はなぜ必要なのか。

【阿倍野美玖様から銅鑼猫にいただいたお手紙をご紹介します。
阿倍野美玖様は、中央官庁に勤務する女性キャリア官僚です。】


銅鑼猫様


阿倍野美玖でございます。御無沙汰しております。


 イラク日報問題に関して私ども官僚への厳しいご指摘本当に有難うございます。
その中でも、プロフェッショナルとしての誇りを持って対応して欲しい、とのご指摘こそ心に沁みるものでした。肝に銘じて参ります。
 *注:ブログ「イラク日報はなぜ発見されなかったのか」ご参照ください。


 この国会の混迷で本当に懸念するのは、「働き方改革」の遅れです。
私は一応キャリア官僚とはいえ、ほんの下僚にすぎないものですが、多少なりともこの問題に関与してきた者として、拙い文章をしたためました。なぜ今働き方改革が必要なのか、そして、今を逃せば手遅れになることを理解していただきたいのです。


 働き方改革は社会問題であるともに経済問題であり、アベノミクス第三の矢「構造改革の柱になるものです。
少し歴史を遡ります。
 1973年のオイルショック。エネルギーの柱となる石油価格が4倍にもなり、各国の貿易収支が赤字になりました。各国とも、自国の製品を海外に輸出しようとして、輸出競争が起こりました。一方では国内ではコスト削減を図り、賃金を押さえ込んできました。
 何が起こったか。1970年から80年代は低成長の中、賃金の抑制のため需要も伸びず、デフレスパイラルに陥っていったのです。
 このような中、我国は、財政政策によって、先進国中最悪の財政赤字をも覚悟して経済成長を遂げることを選択しました。金融政策にいたっては遂にマイナス金利政策まで取りました。こうして、我国の経済成長は長く安定的に続いています。この経済成長はいつまで続くでしょうか。2020年オリンピックまでではないかと考えられています。
 この中で大企業・中小企業ともに、そしてまた、東京も地方も人手不足になり、ものを作ろうにも作れない状態にもなってしまいました。
それでも、経済成長の実感はありません。人手不足でいながら賃金が上がらなかったからです。経済成長と言いながら低賃金の非正規労働者を用いる企業行動が蔓延していたからです。
 安倍首相の強力な指導のもと官製春闘が数年間継続していますが、その恩恵は、大企業の社員に限られます。一方で最低賃金も引き上げられました。
 しかし、これらは大企業と底辺層の底上げに留まります。両者の間にある幅広い中間層には、恩恵が及んでいないのです。
 非正規労働者の実態を見ておく必要があります。家計の助けに短時間労働しているのではありません。フルタイムで正社員と全く同じような働き方をしているのです。今や労働者の4人に1人は年収200万円未満、結婚することも子供をつくることも難しく、仮に子供が生まれても十分な教育を授けることもできません。すなわち貧富の格差の再生産が行われているのです。


 ではどうすればよいのか。いまは経済成長が続き、雇用情勢が好転して人手不足が深刻になっています。経済成長が続く間に、すなわち2020年までの間にこそ、賃金の上昇、需要の拡大を通じた「成長と分配の好循環」を構築しなければならないのです。これにより個人の所得拡大、企業の生産性収益力の向上、国の経済成長が達成されるのです。
 この意味で、働き方改革は社会問題であるとともに経済問題であり、日本経済の潜在成長力の底上げに繋がるのです。


 世の中から「非正規」という言葉を一掃しなければなりません。長時間労働を自慢するような風潮を拭い去らなければなりません。
これが働き方改革です。
「正規・非正規」ではなく、働きに応じて公正な賃金・処遇が行われること、長時間労働是正によりワークライフバランスが改善して女性も高齢者も仕事につきやすく、働きながらの子育ても容易で、かつ自らのキャリア形成も自律的にできるような社会にしていかなければなりません。
 この国会での働き方改革法案の成立が、ひょっとすると我国の最後のチャンスかもしれないのです。
 それだけに、おそらく一部の者とはいえ、官僚の不始末で大きなご迷惑をおかけし、国会の審議が渋滞してしまったことは、官僚の1人としてお詫びしたく存じます。首相などへの忖度云々、といった議論がよく行われますが、志の高い官僚であれば、政治家あるいはその取り巻きの暴走があったとしても、体を張って止めることはできたはずです。私たち女性官僚の希望の星であった村木厚子様、そして、文部科学省前事務次官の前川喜平様、そのような操の高い方は沢山いらっしゃるのです。むしろ、そのような官僚の志の高さこそ、他国に類を見ない我国の強さであり、誇りにすべきことであると思います。


 安倍首相は働き方改革に政治生命をかけておられます。働き方改革実現会議にはすべて出席され、熱心にメモを取っておられる姿を私は間近に見て参りました。
 いよいよ法案が提出されます。国会でしっかり議論すべき時なのです。争点は多々あるでしょう。それは真摯な議論を通じて解決していくべきことであり、与野党とも仮にも政局がらみで法案審議を人質にするような対応はしていただきたくありません。


 申しわけありません。言いすぎました。銅鑼猫様だからこそ、つい筆が滑ってしまったかと思います。それでも、この国が立ち直る最後のチャンスをどうか真剣に見守り応援していただきたいのです。


阿倍野美玖


【注】「阿倍野美玖」は架空の人物であり、いかなるモデルもありません。
我国の操の高い官僚のひとりの姿としてお読みいただければと存じます。


【4月10日追記( 参考資料)】
首相官邸:
   働き方改革実現会議サイト
   働き方改革実行計画
水町勇一郎著「『同一労働同一賃金』のすべて」(有斐閣2018年2月)






                               以上

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